そろばんネタ帳

そろばん四方山話

006)雲州名工との対話 第2話

大雪のせいで、JR木次線が部分不通になってしまいました。そのお陰で、2代目雲文さんと久しぶりにゆっくり話をすることが出来ました。何十年も前に、夜を徹して語り合ったテーマが話題になりました。

手作りそろばん職人と板前さんの共通点は

手作りそろばんの方が機械作りのそろばんに比べて、工作精度が高く、玉が弾き易いのはなぜでしょう?「名人が作るのだから、良いそろばんであるのは当たり前でしょう」と言ってしまえば、その通りですが、もう少し掘り下げて見ましょう。

例えば、「玉の穴クリ」と呼ばれる工程について、説明をしてもらいました。この工程は玉の中心に空いている穴の内面を仕上げる工程で、そろばんを弾く時の良し悪しを決定する最も重要な作業です。手作り職人は、手回しロクロと呼ばれる昔ながらの道具を使って、1個づつ玉の内面を削ってゆきます。

手回しロクロ
 

そのとき名工は、微妙な木の感触を指に感じながら木の繊維を壊さずに削ってゆくのです。原木の生育状況により木の繊維は変化します。同じ原木でも、中心部と周辺部・日あたりや木目により微妙に異なります。決して力任せにはしないで、木の肌合いを感じながら鏡のように仕上げてゆきます。

日本料理の板前さんに聞くと、おいしい刺身を作るには、良い包丁を使って魚の細胞を崩さないように切ってゆくのだそうです。材料となる魚の「活きの良さ」や「荒波で鍛えられた具合」により、その感触は微妙に異なりますが、その肌合いを確かめながらも、決してためらうことなく包丁を進めてゆくのです。(この表現について、専門家の異論やご意見があれば教えてください)

以上が、そろばんの名工と板前さんの共通点でした。 

さて、刺身と違って、そろばんは作ってから何十年と評価され続けます。木材は大気中の湿気や使う人の手の脂分を吸収して、微妙に膨張・収縮を行います。梅雨期や雨天、或いは冬の暖房による乾燥などにより、そろばんの調子は微妙に変化しているのです。その時に、上記で述べたように、木の繊維を壊さずに削られた玉とそうでない玉は差が出てきます。無理に削った繊維は、微妙な膨張・伸縮を繰り返すうちに、繊維が頭をもたげてきます。また、無理にえぐった凹みには、脂分やゴミが詰まるようになります。

機械で削った玉は、手作りの玉に較べて繊維を壊す率がはるかに高いという意味がご理解いただけましたでしょうか?