そろばんネタ帳

そろばんと教育

001)脳とそろばん

そろばんの学習の効用については、一般的に次のように言われています。
・暗算力・計算力の向上
・脳の発達
・集中力の強化
・忍耐力の養成
・洞察力の養成

ここでは、最新の大脳生理学の立場から、「そろばん」と「脳」の関係について、ご説明します。

脳の機能 

脳の、特定の部位が特定の機能を担うと言う、機能局在はよく知られています。
たとえば、目で感じた情報は大脳の後半分の後頭葉へ、耳から得た情報は大脳の側部の側頭葉へ、触覚の情報は大脳の上部の頭頂葉に入ります。
そして身体を動かす指令は、大脳の前半分の前頭葉から出て筋肉を動かします。手の運動を受け持つ部分は、前頭葉の一番後ろの中心前回と言うところに存在します。
また、左右の脳の機能局在の特徴的な例として、「言語」はほとんどの人が左半球で受け持っています。一方「計算」は、普通の人は左頭頂部で行いますが、そろばんを習得した人は別のところで行っていることがわかってきました。

脳機能局在例

そろばんと脳 

そろばんはいろいろな形で脳に刺激を与えます。この際、ポイントは「指を使う」と言う作業です。指は、大脳の運動支配領域の中で極めて広い面積を占めていて、指を使うことは、脳の活性化を促します。
そして、そろばんを弾く音も大事です。パチパチとリズミカルな音を、耳で確認しながら計算していきます。特に聴覚で得た情報は側頭葉に入り、左右両側の脳が刺激されることがわかっています。
脳の活性化には、「難しい計算や理論を解くよりも、簡単な反復計算を続ける方が効果的」と言われています。そろばんの「日々こつこつと練習を積み重ねる」学習スタイルに一致しています。
そろばんをグループで学習する場合、「読上算」(よみあげざん)にぜひチャレンジしてください。耳を緊張させながら、聞いた数字を頭の中で玉に置き換え、目で確認しながら弾く作業は、さまざまな脳の機能を活性化させることでしょう。さらにその作業に、スピード感や正解した時の達成感が加われば、よりいっそう活性化を促すと考えられます。


右脳だけを使えば良いのでしょうか? 

 「右脳を使いましょう」と、よく耳にします。
正しくは、「左右の脳をバランスよく使うことが大切」と言うべきです。
右脳を使うという点では、珠算も右脳が働いていることが知られています。
最先端の機器で調べてみると、そろばん熟練者が暗算をしている時、左右の脳がバランス良く活発に使われていました。
一般の人が左脳で計算するところ、そろばんでは左右の脳をバランスよく使っているのです。そろばんはまさに、脳の発育や熟年者の脳の機能維持に理想的な方法と言えるでしょう。


大阪大学大学院医学系研究科 依藤史郎教授 指導


指導者紹介
依藤史郎(よりふじしろう)
大阪大学大学院医学系研究科 機能診断科学講座 教授(医学博士)
昭和51年大阪大学医学部卒業。平成7年より同大学教授(医学部保健学科検査技術科学(兼)神経内科)
日本神経学会評議員、日本臨床神経生理学会評議員、日本生体磁気学会評議員、神経治療学会評議員など。
中枢から末梢の神経内科疾患の診断治療に関する著書・論文多数。最近は、脳磁図を用いた脳機能解析に取り組んでいる。